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医療事故調査制度とは(8) 当該死亡の予期とは?

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    永らく更新しないままで,申し訳ありませんでした。
    そうこうしているうちに,医療事故調査制度が開始され,「医療法施行規則」(以下単に「規則」と言います。)も確定しました。
    同規則を踏まえて,今回のテーマについて触れてみたいと思います。

    1 医療法第6条の10の「当該死亡」の予期

     医療事故として,調査の義務が生じるのは,予期しなかった死亡事故とされます。
     では,具体的な死亡につき,それは予期した死亡なのか,そうでないのかは,どのように判断すべきなのでしょうか。
     たとえば,癌患者が抗がん剤治療にもかかわらず死亡したという場合,それは予期した死亡なのでしょうか。前回あげた例,すなわち抗がん剤が適切な量でなかったために死亡した場合は,予期した死亡とは言えないでしょう。死亡の予期は,患者の現在の状況に応じて,通常行われる処置を踏まえて,なされるはずです。適量の抗がん剤を投与していれば,1年は生きられたという場合,あるいは,抗がん剤を投与しなければ,少なくとも1ヶ月は生きられたという場合には,そのような経過を踏まえた患者への説明やカルテ記載がなされると思います。
     
     したがって,当該死亡が癌の悪化ではなく,抗がん剤の過量投与による死亡の場合には,予期しなかった死亡事故と考えられます。他方,抗がん剤の投与という医療起因性も認められますから,調査対象となる「医療事故」と判断されます。

    2 医療法施行規則第1条の10の2「予期していた死亡 き◆き」

     この「予期しなかった死亡」かどうかの判断基準として,規則は次のような規定の仕方をしています。
     すなわち,次の)瑤廊△乏催する場合は,「予期していた死亡」と考えられるので,この,砲皚△砲盂催しない場合を「予期しなかった死亡」と判断するというのです。なお,例外的な場合としてに該当する場合にも「予期していた死亡」と扱うのですが,ごく限られた場面なので,説明を省きます。
      ‥該医療の提供前に,患者や家族に,当該死亡が予期されることを説明していた場合。
     ◆‥該医療の提供前に,診療録等に,当該死亡が予期されることを記録していた場合。
      当該医療の提供前に,当該医療従事者等が,当該死亡を予期していた場合。
     (理解しやすくするため,条文を要約しています。)

     要するに,当該死亡を,患者・家族に説明していたか又はカルテに記載していた場合には,予期していた死亡と考えるというものです。では,どのような説明があれば,当該死亡を説明したことになり,予期していた死亡と言えるのでしょうか。
     この点についての解釈指針が,厚労省医政局長通知の形で示されています。

    3 医政局長通知(医政発第0508第1号)

     医政局長通知によれば,,筬△乏催し,当該死亡を予期していたものと言えるためには,「一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではなく,当該患者個人の臨床経過等を踏まえて,当該死亡又は死産が起こり得ることについての説明及び記録であることに留意すること。」という解釈が示されています。
     例えば,入院当初に,末期癌であり抗がん剤投与をしても死亡は避けられないとの説明をしただけでは,その後の死亡全てを説明したことにはならないのであって,抗がん剤の過量投与による死亡を説明したことにはなりません。抽象的な死亡の可能性の説明では,「当該死亡」の説明としては不十分であり,そのような不十分な説明では,予期していた死亡とは言えないという考えを示したものと言えます。

     さらに,医政局長通知は,患者等に対する説明に関して,当然とも言える注意喚起もしています。
     すなわち,「患者等に対し当該死亡又は死産が予期されていることを説明する際は,医療法第1条の4第2項の規定に基づき,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」との指摘です。
      

    4 「当該死亡」と死因

     上記のとおり,「当該死亡」の予期というのは,現に生じた死亡の経過を踏まえた「その」死亡が,予期したものか,予期しなかったものかという観点で判断する必要があります。
     しかし,「その死亡」といっても,すべての死亡について,何が原因で死亡したのかが一目瞭然とは限りません。そうしますと,医療提供前の臨床経過等を踏まえた死亡の可能性の説明が,「その死亡」の説明になっていたのか否かが,患者や家族はもちろん,医療機関管理者にも判然としない場合があると思います。
     こういった迷うケースについては,ひとまず調査のレールに乗せて,死因が判明した段階で,その後の方針を決定するようにして,出来るだけ報告・調査の間口は広くされるべきと思います。

     

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    シヨウセイ * 医療事故 * 12:49 * comments(0) * -

    医療事故調査制度とは(7) 医療法施行規則改正案公表

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      1 医療法施行規則改正案が公表されました
       今回の医療事故調査制度の創設は,医療法の改正という手続により行われましたが,その医療法の中に,「厚生労働省令で定める」という規定があるため,医療事故に関する具体的な定めが,省令に委ねられた部分があります。
       省令に委ねられた部分は,次の3点です。
       (1) 医療事故調査に関する事項
       (2) センターの指定に関する事項
       (3) その他所要の規定
       最も問題なのは,(1)の医療事故調査に関する事項です。
       この度,省令に委ねられた部分に関して,厚生労働省が「医療法施行規則」という省令案を公表しました。
       そして,4月21日まで,この省令案に対するパブリックコメントを募集しています。
       http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495140507 &Mode=0


      2 予期しなかった死亡
       医療事故調査に関する事項のひとつに,医療事故の定義があります。
       具体的には,医療法第6条の10第1項は,当該管理者が当該死亡を予期しなかったものとして省令で定めるものが,「医療事故」であると規定しています(それ以外にも,「提供した医療起因性」の要件もありますが,省略します。)。
       では,予期しなかった死亡とはどんな場合を指すのでしょうか。
       例えば,余命6カ月と宣告された末期のがん患者に,抗がん剤を所定の10倍量投与したために3日後に死亡した場合はどうでしょう。
       この点について,「医療法施行規則」は次のとおり定めています。(わかりやすくするため,文章を省略しています。)
       次のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの。
       一 当該医師が,当該死亡が予期されることを,患者等に説明していた
       二 当該医師が,当該死亡が予期されることを,診療録等に記載していた
       三 当該医師が,当該死亡を予期していた
       この一,二,三のいずれかに該当すると管理者が認めた場合には,予期された死亡として,医療事故とは考えない。したがって,センターへの報告は不要であり,当然調査もしなくてよいということになります。
       逆に,上記のいずれにも該当しない場合は,予期しなかった死亡として,センターへの報告が必要であり,調査の開始,遺族への説明が必要となります。

      3 予期の主体と時期
       上記いずれの場合とも,予期の主体は,当該管理者ではなく,当該医師ということになりそうです。
       予期の時期は,当該医療を施す前の時点であることは言うまでもありません。
       したがって,管理者の視点で死亡後に,当該医療が施される前に,当該医師が予期していたかを判断するということになります。
       その判断の資料として,次の3つのうちどれかを根拠にすることになるのです。
       一 患者等への説明
       二 診療録等への記載
       三 当該医師からの事情聴取

       これを,上記の例に当てはめると,抗がん剤の投与で死亡するとの説明や診療録等への記載はないでしょうし,当該医師も致死量の投与の認識がないのですから,上記3つの場合のいずれにも該当しないので,予期せぬ死亡ということになりそうです。

      4 当該医師の死亡予期
       ですが,上記3つの場合のうち,三の当該医師が予期していた場合というのは,それだけを見ると医療事故から除外するのは,いかがなものかと思います。
       遺族としては,死亡した後に,これは予期されていた死亡なのですと言われても,納得はできないでしょう。
       医療安全と医療の質の向上のための制度とはいえ,医師の事後的な意見で,調査対象から外されると,医師の弁解次第で,当該死亡の原因を調査しないことになってしまいます。
       仮に,事前に当該死亡を予期していたのであれば,当該医師は,何故患者本人又は家族にその説明をしなかったのでしょう。また,そのことを診療録に記載することができなかったのでしょうか。患者本人に説明がなされていれば,当該医師が選択しなかった他の医療行為を受ける可能性があったのに,これが失われていますし,あるいは家族との最後の交流を深める機会も奪われてしまいます。
       これでは,医療の質の向上につながらないと思います。
       したがって,予期は客観的な資料に基づいて行われるべきと思います。例外的に,説明も診療録への記載もできない事情がある場合には,当該医師からの事情聴取を資料とすることができるという制度にすべきです。あくまで,三号は,ごく例外的な場合に認められるものであり,説明も記載もない合理的な事情とセットで判断されるものです。

      次回は,「当該死亡の予期」の中味について述べたいと思います。


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      シヨウセイ * 医療事故 * 16:05 * comments(0) * -

      医療事故調査制度とは(6) 運用指針の公表

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        1 運用指針の公表
         医療事故調査制度の運用指針を議論してきた「医療事故調査制度の施行に係る検討会」が,平成27年3月20日,具体的な運用指針を公表しました。
        「医療事故調査制度の施行に係る検討会」における取りまとめについて
        http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000078202.html

         今後は,この運用指針に基づいて,厚労省によって,省令や通知が定められていくことになります。
         その際,パブリックコメントも募集されるようですので,私も一言意見したいと思います。
         ひとまず,この運用指針のうち,医療事故調査制度の「入口」「中味」「出口」についてコメントしたいと思います。

        2 入口を入れるのは管理者だけ
         調査対象となる医療事故とはどんなものかは,「医療事故調査制度とは(2)」で説明したように,
         ^緡鼎傍因した死亡
         ⇒輯しなかった死亡
        の2つの要件が必要になり,その要件の内容について難しい問題があります。
         しかし,その要件の意味合いよりもさらに,これを判断する人が誰なのかが大きな問題なのです。医療法では,この判断を,当該医療事故かもしれない医療を提供した病院等の管理者としているのです。
         医療機関といえども,経営を抜きにしては成り立っていかない以上,医療事故が発生した場合,これを院外に報告・説明することはできるだけ避けたいと考えるのが当然で,そのような当然の人間心理を前提とすると,判断に幅があればあるほど,,筬△乏催しないとの結論を出すことになると思われます。
         例えば△陵輯について言えば,予期していたと言える場合として,患者への説明やカルテの記載がなくても,担当医師が当該死亡を予期してたと「管理者が認めた」場合というのが,省令で規定される予定なのです。しかも,その判断の資料は,客観的なものに限られるわけではなく,担当医師からの事情聴取でも構わないというのです。担当医師が,当該医療提供前に,頭の中で死亡の可能性もあるなと思っていた場合は,予期性が認められるというのですから,遺族としては到底受け入れられないでしょう。

        3 中味の匙加減も管理者のポリシー次第
         運用指針では,調査の具体的な担い手に関して,何ら具体的には決められませんでした。
         委員会方式にするのか,担当医師や管理者を除外するのか,専門家を入れるのか,公平な第三者を入れるのかなど,何ら触れられていません。
         支援団体への支援要請でさえ,医療機関の判断で決められることとなっています。
         
         また,再発防止は可能な限り調査の中で検討することが望ましいとされました。せめて努力義務にはして欲しかった。
         さらに,調査で再発防止策を検討した場合には,センターへの報告書にこれを記載することとされましたが,医療安全,医療の質向上の観点から再発防止策の記載は不可欠と思われます。ただし,残念なことに「管理者が講ずる再発防止策については記載する」とされています。この点は,管理者が講じない場合には記載しなくてもよいと読むのではなく,管理者は自院の医療安全,医療の質の向上のためにも,積極的に再発防止策を提言し,これを実践していって欲しいと思います。

        4 出口の説明は遺族の希望に沿って
         運用指針では,センターへの報告書を遺族に交付する義務があるとまではされていませんが,口頭のみ,書面のみ,その双方のいずれにするかは,どれが「適切な方法」と考えられるかを判断して説明することとされました。
         また,「調査の目的,結果について遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない。」とされた点は評価されるべきと思います。
         
         私は,前回の記事でも述べましたが,人の死が,将来の医療の安全の糧になるのですから,最低限の儀礼として,遺族に対する十分な説明が必要であると思います。そして,十分な説明のためには,報告書は不可欠と思います。なぜなら,報告書なしで難解な医療上の問題点を口頭のみで説明することは医療機関側からしても困難であると考えられますし,ましてや素人である遺族が,これを理解し,納得することは不可能だからです。

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        シヨウセイ * 医療事故 * 12:09 * comments(0) * -
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